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第3世代半導体レーザ

 

 光ファイバー通信に使われている半導体レーザは、超高速のイメージがありますが、数十G(ギガ)bps程度の速度までしか動作しません。幹線系では、発光波長の異なる半導体レーザを複数使用する波長多重技術により超大容量の通信を実現しています。しかし、そのための装置はとても高価で、私たちのパソコンで用いるLAN(ラン)系には使用できません。ムーアの法則によると、RAM(メモリー容量)が大きくなるとCPU(データ処理装置)も速くなり、それに応じて通信速度も速くなるはずです。しかし、光通信用半導体レーザは、現在は大きな技術的な壁に直面しており、10年近く大きな進展がありません。実質的に2000年の頃とあまり変わっていません。

 

図5 ムーアの法則と幹線系/LAN系の通信速度/容量の推移

 

 我々が提案している半導体レーザの基本構造を図6に示します。初めに、左側の“上から”の図を見てください。ナノテクノロジーにより半導体に直径200ナノメートル程度の空気孔を周期的に空けた構造の2次元フォトニック結晶を使います。このような構造をとれば、穴の無い部分に光を閉じ込めることができ、レーザの光共振器として使うことができます。その近くに光導波路をつくると、ここに光が漏れ出して光導波路の方向に光が出てきます。従って、複数のレーザを簡単に低コストで集積できるわけです。さらに、少し設計を変えることで、それぞれの共振器から波長の異なる複数のレーザ光を取り出すことも可能です。つまり、非常に高価な波長多重技術を超低コストで実現できます。また、第1および第2世代の半導体レーザは全て、レーザ光をデバイス前面から取り出します。第3世代レーザでは、この制限がありません。正に革新的であり、新世代レーザと言って良いと思います。
 半導体レーザに話題のフォトニック結晶を組み合わせることは、誰でも考え付きそうです。我々の提案に先例がない理由は、フォトニック結晶レーザにおいて電流注入(電気的動作)が至難の業だからです。フォトニック結晶と電気的動作は、水と油の関係にあり、意外にも両立しません。フォトニック結晶レーザの光励起によるレーザ動作の報告は数多くあります。しかし、電気的動作の報告は僅かです。その特性も実用化には遠く及びません。先の“フォトニック結晶”で説明したように、フォトニック結晶を実用化するには、スラブ型2次元フォトニック結晶の適用が現実的です。そこでは、スラブ層をはさむ上下の層は、空気やSiO2(ガラス)などの低屈折率材料であり、電気を流すことができません。仮にフォトニック結晶の利用により共振器長が数ミクロンの理想的なレーザが作製できても、別の巨大な電流注入型レーザで光励起するなら実用的には無意味です。産業へ貢献するためには、フォトニック結晶レーザの電気的動作が必須です。現在は、未だそれができないのでフォトニック結晶の産業貢献が小さいのです。
 次に、図6右側の“横から”の図を見てください。我々が提案するレーザでは、レーザ光はGaAs基板(ウエハ)と平行に活性層を往復運動します。光は、その方向には、2次元の屈折率周期構造(フォトニック結晶)で閉じ込められます。光の運動方向と直角方法、つまり活性層と垂直方向には、GaAsコア層の上下を低屈折率材料で挟んだスラブ構造で閉じ込められます。一方、発光源であるGaInNAs量子井戸層へ電流を流す必要もあります。我々はAlAsでこの困難な課題を克服します。AlAsの一部のAsを酸素で置換しAlOx(アルミナ)とすることで、光の閉じ込めと導電という2つの性能を両立させます。AlOxは、屈折率が約1.6の低屈折率材料で、なおかつ、電気を流さない絶縁体です。一方、AlAsは、電気を流す半導体です。この性質の全く異なる材料を、レーザ構造に同時に持ち込められるのが、ミソです。

 

図6 第3世代半導体レーザの基本構造図

 

 ここで、ミソの意味を説明します。図7には、空気穴からその近傍のAlAs層を選択的に酸化した様子を示します。色の濃い部分が酸化されたAlOxです。制御性よく同心円状に酸化されることが分かります。中央の白っぽい部分が未酸化のAlAsです。この部分、つまり、光共振器部分のみに電気が流れます。(電流が注入される部分を、我々はfunnel(じょうご、通風筒)と呼びます。)また、AlOxは屈折率が半導体の約1/2の低屈折率材料ですからコア層のGaAsとの屈折率差が大きく、光を強く閉じ込めることが可能です。従って、導電と光の閉じ込めという2つの性能を両立でき、共振器長が数ミクロンの理想的な第3世代レーザを実現できるのです。
 もしも、AlOxの部分がAlAsの様な高屈折率の半導体のままだと、光の閉じ込めが不十分で超高反射率のミラーとして機能しません。従って、共振器長がミクロンサイズのレーザを実現できません。共振器長が第1世代半導体レーザと同じく数百ミクロンになってしまうなら、わざわざフォトニック結晶ミラーを用いる意味がありません。

図7 AlAs層の選択酸化の様子:色の濃い部分が、空気孔を通して酸化されたAlOxです。制御性よく同心円状に酸化されることが分かります。AlOxは、絶縁体ですので、電気を流しません。中央の白っぽい部分が未酸化のAlAsで、電気が流れます。酸化幅が大きすぎると、電気を流すfunnelが潰れてしまいます。反対に、酸化幅が小さすぎると、フォトニック結晶部分から電気が漏れてしまい、電流を狭窄できません。酸化幅を、10ナノメートルの精度で再現性良く制御することが必要です。

 

 新世代レーザの開発は歴史的な仕事です。一人二人で出来るものではありません。研究室が一丸となって取り組んでいます。具体的には、以下で説明するグループに分かれて、必要な技術を責任を持って開発しています。各グループは連携し協力しながら、最終目標を実現するように互いに競い合っています。また、近藤研究室内だけでは不十分な技術は、国内外の大学、研究機関、および、メーカーとの共同研究でカバーしています。

 

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