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シミュレーショングループ

 開発するレーザは全く新しいものですから、デバイス設計の指針がありません。自分達で作らなければなりません。フォトニック結晶内に作製されるレーザ共振器がどのような性能を持つか、時間領域差分(FDTD)法を用いてシミュレーションします。FDTD法は、フォトニック結晶の研究において一般によく用いられています。マックスウェルの方程式を解くだけなので原理的には単純ですが、実際には3次元計算を行うため多くのメモリー容量と計算時間を要し、種々のノウハウが必要です。特に、対象となる共振器のサイズが大きくなると困難になります。我々は、市販ソフトウエアでは対処できないサイズを扱えるソフトウエアを独自に開発しました。図8および図9に、シミュレーションの一例として、ある共振器構造と電磁界分布の計算結果を示します。様々な構造の共振器についてシミュレーションを行い、統一的な設計方針を確立しようとしています。

図8 レーザ共振器構造の例: 黄色で示される部分には、空気孔が無く、光が閉じ込められます。共振器再近接の空気孔を矢印の方向に少しシフトさせると、光の閉じ込め能力が大きく改善します。電流は、黄色のfunnel部分にのみ注入されます。

 

図9 電磁界(光強度)分布: 共振器内に閉じ込められている光と、導波路へ漏れ出て光出力されている光の様子が分かります。

 半導体レーザに適用するには、さまざまな条件(要求仕様)があります。我々は、高効率、低消費エネルギーで、なおかつ、産業応用に必要な光出力を得ることのできるレーザの実現を目指しています。図10に、レーザのしきい値電流密度と共振器の光の閉じ込め能力(Q値)の関係の理論計算結果を示します。Q値は2000以上あれば十分であり、レーザへの応用では巨大なQ値は必要でないことが分かります。また、我々は、Q値と光共振器の大きさ(≒funnel断面積(電気抵抗に反比例します))の両立に注力しています。図11に、その関係を示します。灰色の部分が目標範囲です。赤い曲線が、従来技術での理論計算の結果です。(レーザの構造と材料が我々とは異なりますが、参考になります。)光の閉じ込めと大きな電流注入領域は相反し、その両立が非常に困難なことが分かります。我々が、開発するレーザの構造・材料について計算した結果が白丸です。赤の曲線と整合します。先の“第3世代半導体レーザ”の説明では、AlOxとAlAsの性質の全く異なる材料をレーザ構造に同時に持ち込められることがミソと述べました。しかし、ウエハと平行に往復運動するレーザ光にとって、AlOxと比べて大きな屈折率のAlAsは散乱体になります。AlAs-funnelのサイズが光の波長に比べて大きくなると、Q値が急激に減少します。これは、物理として正しい現象です。
  理論的・物理的に無理と言われても、我々は諦めるわけにはいきません。情熱と根性で、一つの答えを見つけました。灰色の部分内にある黒丸のデータがそれです。エヘン。詳細は、Morifuji et al. IEEE Photonics Technology Letters 21 (2009) 513を見てください。

 

図10 レーザのしきい値電流密度と共振器の光の閉じ込め能力(Q値)の関係

 

図11 共振器の光の閉じ込め能力(Q値)と電流注入領域の大きさ(funnel断面積)の関係: 赤の曲線は、他の研究グループの計算結果で、理論限界と考えられていました。黒丸は、その限界を超えて、灰色領域の要求仕様を満たしています。白丸と黒丸の計算結果は、図8のシフトの有無に対応しています。僅かなシフトが、結果に大きな違いを生じさせます。フォトニック結晶の研究において、空気孔のシフトは一般的な設計技術です。しかし、本構造において、どの様にどれだけシフトすれば、どう特性が変化するかは全く不明でした。結果を知った後では極簡単なことも、それに辿りつくまでに多くの試行錯誤が必要です。

 本グループの設計した結果に基づき、他のグループが、プロセス(作製)技術を開発しデバイスを試作・評価します。我々の指示どおりに研究室が動くので、気持ち良いですが、責任重大です。また、他のグループから、設計変更の依頼がある場合には、真摯に対応します。本グループでは、あまり予算を使いません。頭脳で勝負です。

 

(旧メンバー: 池上勝哉君、Cik Zarina Binti Yusoffさん、河野孝透君、中矢陽介君、三田村昴君)

 

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